第六の基本味?

http://www.asahi.com/science/update/0825/TKY200808250043.html
味覚ネタと聞けば,飛びつかずにはいられない(いや,単純に個人的な興味です)。これだけでは見当がつかず,直近の論文を眺めてもT1R3が関与していることくらいしか分からなかったのだけれど,少し調べたところ,より詳細な記事が見つかった。
That Tastes ... Sweet? Sour? No, It's Definitely Calcium! -- ScienceDaily
狭義の味覚(tasteではなくgustation)は,5つの基本味(塩味,酸味,甘味,うま味,苦味)から構成されると言われている。今回の話題は,そこに6つめとして「カルシウム味」が加わるかもしれない,というものだ。まずカルシウムに味があったことに驚いたが,それを既存の基本味で説明するなら,苦味とほんの少しの酸味,なんだとか。言われてみると,何となく想像がつくような,つかないような。
彼らがマウスを使って「カルシウム味」を感知する受容体として特定したのは,CaSR(Calcium-sensing receptor: カルシウム感知受容体)とT1R3だった。前者が舌で発現しているという報告はこれが初めてのようだ。甘味受容体(T1R1+T1R3)やうま味受容体(T1R2+T1R3)から単純に類推すると,CaSRとT1R3がカップリングしている可能性が考えられる。写真に関しては詳細な説明がないが,これは舌乳頭の断面図で,強く光っている部分が味蕾らしい。よく見ると同じ味蕾を構成する味細胞の中でも光の強さに明確な差があるので,他の基本味を感知する受容体と同じように,味細胞によって発現に特異性があるようだ。
このカルシウム味がヒトにとって,苦味と酸味の重ね合わせではなく,第六の基本味である可能性はどのくらいあるのだろうか。少なくとも齧歯類にとっては,この記事の本文と写真から,カルシウム味が(いくつめかは分からないけれど)基本味の一つである可能性は高そうだ。CaSRがGPCRの一種であり,T1RやT2Rと同様にPLCを介してIP3をセカンドメッセンジャーとしていることを考えると,CaSRとこれらのGPCRは味細胞を「棲み分け」ている必要があるが,それは写真を見る限り達成されているように思える。当然ヒトもCaSRとT1R3をコードする遺伝子を持っているから,最低限の道具は揃っているわけだ。
さて,ここからは少し気楽に,gustationではなくtasteの話。Tordoff博士によれば,"Calcium tastes calciumy"としか言えないものらしい。きっとラボのメンバーで色々と試してみて,「うーん…苦味?」「いや…酸味?」「分かんねーよ,calciumyだよ」みたいに,侃々諤々の議論を繰り広げたに違いない。その光景を想像すると少し笑える。
果たして,そんなカルシウム味を表現できる日本語はあるのだろうか。比較的近いんじゃないかと思われるのは「渋み」「えぐみ」だけど,広義の表現の範疇には収まる可能性はあるものの,生理学的な対応はなさそうだ。そうなると,もう「かるしうみ」でいいんじゃないか。