俺のダジャレタイトルフォルダが火を噴くぜ!

博士最終セミナーなるものを先日無事に終えたんだけど,その準備段階で色々と振り返ってるときに,ある論文のことを思い出した。今のラボに所属したばかりの頃,どんな業績が出てるのか調べてて見つかったうちの一本がこれだったんだ。

To BDNF or not to BDNF: that is the epileptic hippocampus.

その後自分が師事することになる先生が,博士課程のときに彼の師匠と書いたレビュー。歯状回に発現してるBDNFが側頭葉てんかん発症に寄与する可能性について書かれてたんだけど,内容とは別に,これいいじゃんと思ったのがタイトル。一見して分かるとおり,ハムレットの "To be, or not to be" をパロったタイトルになってるんだ。一次情報としての科学文献といえば堅苦しいものばかりだって先入観があった自分には,これはかなり新鮮だった。というわけで,それ以降にダジャレやパロディになってるタイトルと出会うたび,ちまちまと保存してきたものをいくつか紹介するよ!先に断っておくと,自分の観測範囲が限定されてるので,取り上げるものは神経科学分野に大きく偏っております。

まずは同じく "To be, or not to be" をネタにしたもの。自分が見てきた範囲で,元ネタとして一番膾炙してる。その中でも一番気に入ってるのがこれ。

2B or not 2B: a tail of two NMDA receptor subunits.

NMDA受容体のサブユニットであるNR2Bの有無が,NMDA受容体依存的な神経毒性に影響するっていう論文に対するコメント。まさしく "2B or not 2B" な仕事なので,何かうまいこと言いたいならこれしかないってタイトルだと思う。これを見ちゃったら,数多ある "To be" ネタはどうしても霞んじゃう。

Neuroscience: To go or not to go.

To bet, or not to bet: that is the question of SEF spikes.

To touch or not to touch: posterior parietal cortex and voluntary behavior.

To cross or not to cross: alternatively spliced forms of the Robo3 receptor regulate discrete steps in axonal midline crossing.

まだまだあるんだけど,とりあえずこのくらい。どうせパロディにするなら,せめて音を似せてよねって思う。

映画

Preview. Angelman syndrome: finding the lost arc.

インディ・ジョーンズシリーズ第1作 Raiders of the Lost Ark をネタにしたと思われる。Arcってのは樹状突起のスパインに局在して可塑性に関与するタンパク質で,アンジェルマン症候群の原因遺伝子であるUbe3A(E3ユビキチンリガーゼの一種)がこのArc分解をとおしてシナプス成熟に関与することを発見した論文に対するコメント。

Emotional regulation, or: how I learned to stop worrying and love the nucleus accumbens.

キューブリックの『博士の異常な愛情 Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb のパロディ。ヒトのfMRIで,ネガティブな感情の反応にはvlPFCから腹側扁桃体への投射が,ポジティブな感情の反応にはvlPFCからNAcへの投射が関与することを発見した論文に対するコメント。論文の内容を反映したタイトルにはなってるんだけど,これだけ目立っちゃうのもどうなんでしょうなあ。

Neuroscience: Gone with the wean.

風と共に去りぬ Gone with the Wind のパロディ。ヒトの剖検脳で,SVZやRMSを移動してる未成熟な神経細胞が個体の発達に伴って急激に減少することを報告した論文に対するコメント。面白いことに彼女ら(=未成熟な神経細胞)はげっ歯類みたいに嗅球へ移動するだけじゃなく,むしろ多数はPFCへ移動するのだ!Alvarez-Buyllaが神経科学大会に来たのって2012年だっけ?そのときもこの話題が出たような。パロディタイトルの方は,移動する細胞がそのつらなりから離れていく過程をネタにしてると思われる。

音楽

The signs of silence.

Simon & Garfunkel The Sounds of Silence のパロディ。マカクの聴覚皮質からECoG記録して,感覚入力がある状態で観察されるトノトピーと,感覚入力がない状態で観察される自発活動を比較した論文に対するコメント。

Ome sweet ome: what can the genome tell us about the connectome?

これは少し迷ったんだけど,Motley Crue の Home Sweet Home だと思うんだよなあ。最近はやりのコネクトームについて,果たしてそこから得られるものはあるのかどうか,先行する「オミクス」計画であるヒトゲノムプロジェクトの実例に触れつつ考察したレビュー。

Imagine All the People: How the Brain Creates and Uses Personality Models to Predict Behavior.

Imagine の冒頭ですな。タイトルに反応しただけで中身は見てませんごめんなさい。

その他

Neuroscience: wrestling with SUMO.

Making COPII coats.

この辺ははっきりした元ネタがない,ただのダジャレ。上はSUMOタンパク質,下はERから出芽する小胞を被覆するタンパク質のCOPIIをもじってる。SUMO化なんてネタにしてくださいと言わんばかりのネーミングですよね。自分に身近なところだと,受容体チロシンキナーゼのTrk(trackと同じ発音)はよくネタにされるかなあ。

まとめ

まだまだたくさんあるとは思うんだけど,いかんせんダジャレタイトルに特化したアンテナを張るのも簡単じゃなさそうなので,これからも偶然の出会いに任せて探すしかないのかなあ。というわけでこの報告を僕の博士研究発表に代えたいと思います。