マイレージ、マイライフ

1日に観てきた。大失敗だった…GWの精神安定って意味で。

ライアン(ジョージ・クルーニー)は,企業の代理でリストラを宣告するのが仕事。年間300日以上を出張に費やして,航空会社のマイルを貯めることが人生の目標になっていた。本業の合間には,啓発セミナーで身軽なライフスタイルを主張する。いわく,バックパックに入りきらない人生の荷物(ex. 家族,友人)は不要なものだ。出先で知り合った,彼と同じく出張続きでマイラーの女性(アレックス:ヴェラ・ファーミガ)とも気軽にやっちゃう感じ。
そんな彼に,厄介な問題が降りかかった。コーネル大学を首席で卒業したとかいう新人の女の子の面倒を見る羽目になるのだ。しかもこのナタリー(アナ・ケンドリック),無駄な出張を廃止してビデオチャットでリストラを宣告しようなんて企画を打ち出す。そうなれば当然ライアンの生き甲斐が邪魔されてしまうわけで,困ったどころの騒ぎじゃない。
さらに,家族も面倒なことを押しつけてくる。妹が結婚することになったのまでは良かったのだけれど,その妹夫妻が写ったパネルをあちこちに持ち運んで,風景と一緒に写真を撮ってこいと言われるのだ。つまりアナログな合成写真ってことね。そんなこんなでキャリーケースにパネルを突っ込んで,旅慣れないナタリーを連れ回しながら,各地でちゃっかり予定を合わせてアレックスと遊んだりしてるうちに,少しずつライアンの心境に変化が現れるのだった…。
いやあ,何というか…とても良くできた映画だ。構成の完成度がとても高くて,まったく隙がない。観てから数日経った今になっても,思い出して気付くところがたくさんあるくらいだ。たとえば,妹夫妻のパネルはどう頑張ってもキャリーケースに収まらなくて,顔だけぬぼーっと飛び出している。まさに「バックパックに入りきらない人生の荷物」なわけだ…お手本のような演出である。
たかが1本の映画で,どうしてこんなに鬱々としたGWを過ごす羽目になったかというと,最近ぼんやり考えていたこととあまりにも一致してて,しかもそれを無遠慮に突きつけられてしまったからだ。セミナー発表の前々日だったかな,深夜までたくさん論文を眺めてあれこれ考えてたんだけど,ラボを出て自転車に跨って,夜風を受けながらほぼ満ちた月を見上げたら,どうでもよくなったのだ。いや,基本的に研究なんてどうでもいいものだ。めちゃくちゃ面白いし,熱中できるんだけど,やっぱりどうでもいい。そこから派生して,全体的にどうでもよくなった。まあ,次の日はまたしっかり熱中できたんだけどね。
うまく表現できないんだけど,世の中に大切なことって一握りしかなくって,ほとんど全部はどうでもいいのよね。それが面白かったり熱中できたりするものであっても,やっぱりどうでもいい。とは言っても,大切なことだって結局恣意的なもので,そこには普遍性も永続性もなくて,ただの思い込みに過ぎない。その思い込みが幸運なことに一生続いてくれたりすると,ヒトは遡及的に運命感じちゃったりするみたいだけどさ。そういう意味では,どんなどうでもいいことでも大切なことになりうるって点で全部大切だ…なんて言い方もできるかもしれない。
ただ悲惨なのは,これが大切なんだって思っちゃったのに,それが手に入らなくて,手から逃げちゃって,どうでもいいこと(ex. マイル)のどうでもよさにも気付いちゃって,それでもそんなどうでもいいことに囲まれた世界で生きていくしかないってことだ。気付かなければ,淡い諦観だけでやっていけたのにね。主人公が電話でお姉さんに返答する "Isolated but surrounded" のうしろに,"by indifferent things" がハッキリくっついちゃうってこと。そこで駄目押しのように「どうでもいいことは,やっぱりどうでもいいんやでえ」って言うのが,この映画。これは…しんどい。
まあ,自分も24歳と6ヶ月と2日にもなると人生について沈思黙考せざるを得ないわけで,色々考えてみて,揺れ動いていた部分にドカンと共振したんだな。そもそも自分はどちらかというと主人公みたいに人間関係を切り捨てながら生きてきたわけで,高校に入ったときも,東京に来たときも,何となくほとんどリセットしちゃったもんね。まあそれは,単純に自分のバックパックが小さいからなんだけど。んで,どうせあと数年したら日本から出ちゃうわけで,それこそスーツケースに収まる荷物だけ持って飛んじゃえくらいの(諦観混じりの)覚悟みたいなものがようやく形を見せ始めた頃に,久しぶりに高校時代の友人と再会してやっぱり楽しかったり,そこでこの映画ですよ。もう何が何だか分からなくなっちゃったのだ。
映画の話題から逸れ過ぎちゃったので元に戻すと,いやあ,やっぱりあちこちでグサグサ来てたね。それと同じくらい,笑えるところもあったんだけど。ライアンとアレックスが意気投合するときに,お互いがいわゆる「マイル・ハイ・クラブ」の会員であることを打ち明けるところとか。"can sir?"とか,"only with vagina"とか。土壇場で結婚キャンセルするなんて言い出した夫(予定)のところにライアンが送り込まれるんだけど,説得するどころか同意しちゃって,それを室外から見ていたお姉さんが唖然としてるところとか(おっとこれは少しネタバレに踏み込んでしまったか)。ナタリーが彼氏にメールでふられたーってぴょんぴょん地団駄踏みながら号泣しちゃうところ,可愛かったなあ。
あと,やっぱり,ジョージ・クルーニーを賞賛しないわけにはいかない。彼の印象って基本的には『ディボース・ショウ』であり『オーシャンズ』であり『フィクサー』であって,次に『ソラリス』『オー・ブラザー!』『シリアナ』があって,『フロム・ダスク・ティル・ドーン』みたいなむちゃくちゃな役とか,『ピースメーカー』みたいなむちゃくちゃな話がある感じ(個人的には『ER』の人って感じじゃない)なので,今回の役どころは本当に当たりだと思う。1.5流パワーエリートの悲哀と諦観っていうか。最近の俳優で,ちょっとした沈黙をあれほど演技として魅せられる人っていないんじゃないかな。しかも今回の作品で後半に何度か見せる,あの「優しい笑顔」!あの「優しい笑顔」が出てくる経緯とその顛末を全部まざまざと見せつけられたからこそ,ラストシーンの表情が素晴らしい。
とにかく,素晴らしい映画なので,オススメです。ただ,しんどい人にはしんどいと思う。あらすじと感想を伝えただけでうつをこじらせた同期がいるくらい。自分の場合は「GW初日にシャッターアイランドなんて見たらどんよりしそうだからこっちにしとこう」くらいのノリで行って見事に裏目に出た感じ。あっちは来週見ようっと。