シカゴ6泊8日の旅その3

あと一息だ,今朝のうちに書き終えてやる!

20日

自分が見るべき発表は4日目と5日目のものが圧倒的に多かったので,最低限のタスクはこなしながら,かつ可能な限り金銭的負担を減らして観光することに労力を費やした。
午前中はポスターをいくつか眺めてから,Ben BarressのSpecial Lectureを聞いてきた。トークの内容は,Cellの最新号に掲載されたばかりのとびきりexcellentな仕事(が8割)と,PinkerやSummersに対する批判(が2割)。二つめの話題は2006年のNatureにCommentaryが掲載されて話題になったが,今回も結構な時間を割いてその話をしていた。
昼食は会場から徒歩20分くらいのチャイナタウンへ。あまり歩きたくなかったので,一番近場のレストランに入った。何を思ったかKun Pao Beef(牛肉とピーマンのカシューナッツ炒め)など頼んでしまい,とてもじゃないが硬くて食べられないカシューナッツを泣く泣く全て避ける羽目になった。もうお金が底を突きそうで大変困っていたのだけれど,自分が日本からポスターを運んであげた同期が,そのお礼ということで奢ってくれた。ありがとう,ありがとう…。
会場に戻って一通りポスターをチェックしてから,同期の買い物に付き合ってマグニフィセント・マイルへ。H2O+やMacy'sに立ち寄ってから,本屋を冷やかしに行った。Cormac McCarthyのペーパーバックが何冊か欲しかったのだけれど,財布が許さず,泣く泣く諦めることに(泣いてばかりだな)。No Country for Old Menを少しだけ立ち読みしたら,本当に映画そのままだった。まるで小説というより映画化されるのが前提で脚本を書いたんじゃないかというくらい,簡素で単純で,かつ映画的な印象を想起させる表現が多いのだ。
そのあとはCrate & Barrelというアメリカ版Franc Francみたいなお店を覗いてから,お決まりのTrader Joe'sへ。お金が尽きても生きていけるように,最低限の食料を購入しておいた。3個入りのチョコチップスコーンが2.99USD,6本入りのGoose Island Harvest Aleが7.99USD。神様,ぼくを生かしてくれてありがとう。
そうそう,この近くのATMで,ほんの少しでもカードでキャッシングできないかと思って試したのだけれど,あえなく撃沈したのだった。へこんでいるところにホームレスのおばちゃんが現れて「おつりくれ」って言うから,本当に空っぽの財布を見せて"I have no money."と言ったら,"Have a nice day."と同情されてしまった。お互いに,頑張りましょう。
夜はグラントパークをお散歩した。事前情報だと10月末まではバッキンガム噴水(本物をさらに2倍にしたオバケ噴水)がライトアップされていてとても綺麗なはずだったのだけれど,どういうわけか水が干上がっていた。ちょっと早めに切り上げちゃったのかな…残念だ。

クリックすると大きくなるよ!本当ならこのパノラマ写真の中心に噴水が上がっているはずだったんだよなあ。シカゴで一番高いウィリスタワーと二番目に高いAONセンターが存在感を放っているけれど,この画面で一番のお気に入りなのは,AONセンターの右隣にあるBlue Cross and Blue Shield Towerなのだ。上層と下層でライトアップのパターンが違うあたり,大好きなミッドタウン・タワーによく似ている。このビルは上から下までオフィスらしいから,きっと意匠でそうなっているのだろう。うーむ,寒色の静謐さがたまらんですな。
夕食はスコーンとエール。どうにも体内時計がシカゴに馴染まず,この日も異常なくらい早寝早起きしてしまったのだった。

21日

午前中は見るべきポスターが少なかったので,撤収直前にお邪魔することにして,早朝から観光することにした。

うーん,清々しいね。え,右下と木々の隙間に見切れているのは何かって?きっと世の中には知らない方が良いこともあって,おそらくこれはその一つなのだと思うのだけれど,好奇心旺盛で怖いもの知らずな人は,これを見ればいいんじゃないかな。これ,日中だと口からぴゅーって水が出るらしいよ…どうしてこうなった。

さっきのあれを見た人にとっては,こんなオブジェも可愛いものだろう。外側はつるんとしているのだけれど,真下に入り込むとまるで魔境だった。つまり凹面鏡みたいになっているのだよね。

昨夜のBCBS Towerに朝焼けが映り込むと,こうなる。ここまでくると神々しさすら感じるな。
そのままミレニアムパークを突っ切って,ミシガン湖畔へ。早朝のLake Shore Driveはたくさんの自動車を間断なく南北へと運びはじめていて,まるで朝日が動脈に血を通わせたように,一日が始まるのを感じた。日の射す方向へカメラを向けていると,ようやく歩けるようになったくらいの赤ちゃんを連れて散歩しているお母さんが気を遣って立ち止まってくれたので,挨拶程度に少しお話しした。シカゴはとても良いところですね,こんな朝を迎えられるなんて。そうでしょう,今日も特別な一日みたい。ははは,映画かよ。ジョギングしている人が手を挙げて挨拶してくれたりして。そんなこんなで,まだ少し熱を持ったコーヒーを啜りながらぼんやりと水平線を眺めているうちに,どんどん涙が出てきた。生きていたら良いこともあるもんだよなあ。
そのあとは同期と合流してから湖畔を徒歩で南下して,シェッド水族館へ。もちろん自分は資金が底を突いていたのだけれど,何としてもペンギンを見るのだ,id:taoizmの分を立て替えておいても良いから…という同期の熱意に負けたのだった。まあ,大正解だったのだけれど。

エントランスの近くから市街地を一望する。さっきのパノラマ写真と同様に,どうしても雲の継ぎ目が気になってしまうけれど,そこはご愛嬌ということで。いやあ,圧巻ですな…。
水族館は,とても16USDだとは信じられないくらい充実していた。受付で「学生のdiscountはないのか」なんて聞いてごめんなさい,心から反省しています。だって世界中の生き物に会えて,さらにペンギンとイルカのショーまで見られるんだから!
このショーがまた物凄くて,観客の女の子が一人だけ選ばれて飛び入りで参加する形式だったのだけれど,どう見ても振る舞いが素人じゃないのだ。いや,素人なんだろうけど。いきなり衆人環視の只中に連れ出されて,ペンギンのコスチュームを着せられて,どうしてそんなに楽しく踊れるんだ…しかもめちゃくちゃ可愛いのね。アメリカ凄いよアメリカ。
ここからさらに会場まで徒歩で(!)移動し,ポスター会場でリブサンドを詰め込んでから,午後の発表に挑んだ。見たいものを駆け足で回って,MacAskillにも挨拶して,最後の観光へ。この時点で財布には4USDくらい,もはやウィリスタワーにもジョンハンコックセンターにも上れない。見下ろすのが無理なら見上げれば良いじゃない…というわけで,初日に購入したVisitors Passを駆使して,ループエリアを乗り鉄することにしたのだった。

街角はビルの陰でどこも薄暗く,空が入ると必ず白トビしてしまう。ループの上ですらこれなんだから,下はもっと暗い。線路の土台もホームも木製なので,まるで夢の国のアトラクションみたいなのだけれど,残念ながら,ステンレス製の車両は,夢も何もかもぶち壊すようなスピードで突っ込んでくる。もっとも,写真にあるような急カーブのところではゆっくり走ってくれるのだけれど。
めでたくループの全駅制覇を達成した後は,シカゴ川の周辺を散策した。マリーナシティやIBMビル(どちらも良い写真が撮れなかった…)を飽きるまで見上げて,バスでマイルまで出かけ,スコーンと水を買って戻ってきた。この時点で残金30セント…もう笑うしかない。
どこにでも神様はいるもので,夜は同期が立て替えてくれて,ディープディッシュピザを食べられることになった。早めに出かけたつもりだったのにUNOは長蛇の列が出来上がっていたので,すぐ近くにある支店のDUEへ。後で返すのだからと思って完全に調子に乗った自分はGoose Island 312をパイントで頼み,同期が食べきれずに残したピザまで平らげて帰途についたのだった。ここではNUMERO UNOというオリジナルピザとSpinach(ほうれん草)を頼んだのだけれど,どちらも美味しかったなあ。

まとめ

極貧だ何だと騒いでおきながら,振り返ってみると食べるべきものはしっかり食べていたのであった。借金はかさんだけれどね…良いんだ,少しレジ打ちすればすぐ稼げる額なんだから!
実際に訪れてみて,シカゴが世界一住みやすい都市だというのは本当なんだろうな,という実感が湧いた。そりゃ比較的過ごしやすい時期に一週間程度ホテル暮らしをしただけだから詳しいことは何とも言えないし,消費税がバカみたいに高いのにも辟易したけれど,良い食品が安い価格で入手できるし,文化も娯楽も一級品だし,何より都市環境が素晴らしい。あの公園があれば,それだけである程度メンタルヘルスは維持できるんじゃないだろうか。
来年はサンディエゴ,再来年はD.C.なので,是非とも3年後にはまたシカゴに戻ってきて欲しいところ。ああ,でも自分がD3だから,参加するとは限らないのか…何にせよ,もう一度と言わず何度でも訪れたい街だった。
そうだ,次は往復の機内で見た映画8本の感想を書かなきゃ…。